こわ〜

思いっきり散歩、と昨日は書いたものの、今日はそんな気なかったのに。


夕方、涼しくなってからハナと散歩。
初めて通る山道だった。草木のうっそうと生い茂る、久しく人は通ってなさそうな、道。でも自信たっぷりに先導してくれるもんだから、ついていった。最後に山を出るまで、誰にも会わなかった。
ハナは一向に気にしてなかったけど、俺の青いシャツには、蜘蛛の巣がびっちり。ついでに顔にも頭にも。頭のネットは、パーマかけるときのキャップをかぶってる感覚に近かったけど、勿論そんな悠長なこと言ってらんない。結構ベトベトするんだ、糸って。
いやほんと、蜘蛛たちには申し訳ないことをした。
日も暮れて薄暗い、誰にも会わない初めての山道で、蜘蛛の巣が目に入る。これけっこう怖いよ。何が怖いって、ついでに蜘蛛まで腕にくっついちゃうんだから。立派なホラーでしょ。
引き返すには遠くまで(深くまで?)来ちゃったみたいだし、ついていく方が早く抜けられるかも。おまえの鼻が頼りなんだよ、ハナ。
という俺の切羽詰った心境をわかってか、もっと我が道を気ままに進む彼女。沢沿いにようやく下り始め、どこでもいいから山から出してくれ、と思っていたら行き止まり。ちょっとした沼になって、道がない。正確にいうと、その横から急勾配の上り道しかない。つまりまた登るしかない。完全に真っ暗になる前に。
そのあと上りと下り、期待とがっかりを二回繰り返し、ついに最後の下り坂まできたとき、ハナの足が止まった。引き返そうとする。おいおい、今から戻るってか?勘弁してくれ。
確かにちょっとヤバそうで、更にうっそうとして先が見えない。でも怖さはこれまでと同じだし、悪いけどここからは俺が主導権を握らせてもらうよ。先を進むからね。おいで、ハナ。
山を抜ける少し前、一つの木を、ハナが大きく迂回して通り過ぎた。通り過ぎても、また気になって戻る。こらこら、早く行きますよ、って言いながらちらっと見た木の裏に、なにか影があった。暗くてほとんど分らなかったし、あまり確認したくもなかったけど、たぶん人だった。
ぞっとして、更に早足に進んでいき、ようやく山を抜けた。
そこは墓地だった。